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あなたはよくここをみていたそうだから。
今日帰りがけにあなたがよく飲んでいたお酒を買った。グラスも付いてきた。毎晩たくさん飲んで眠れたらいいな。

平日昼間のショッピング・センターには至る所に子連れがいたよ。母親と子供。あなたの求めていた幸福が溢れてた。あなたにだって権利も覚悟も資格もあった。息子に会うためにあなたは働いた。あたしにはこれしか出来ないといっていた。息子に会うために息子への愛を証明する為にあなたはお金が欲しかった。無理して働くなら机の引き出しにしまってある臍繰りならいつでもあげるといったのにね。いつか息子と二人で暮らすのといった。あなたのほしかったもの。あなたの幸福はあなたを追い詰めたのですか。やはりAさんの言ったとおりそれはみたむらくんの想像でしかないのでしょう。でも家族連れを見る度、私はあなたのことを思い出してしまう。

久方ぶりの告別式というやつは著しくリアリティを欠いていて要らぬことばかり頭に浮かんだ。自分はとても冷たいにんげんなんだと思った。他人事みたいだった。矢張り皆泣くんだなとかお焼香てどうするんだっけとかホリゾントの色はこんなに目まぐるしく変わる必要があるのかとかBGMの安っぽさとか、斎場は小奇麗でぴかぴかしていてその所為もあったのかな。終始無表情でぼーっとしてた。遺影がずっと私のほうだけを見ている気がした。気になったからじっと見返した。死ぬということは動かなくなることとこんなにも頬が冷たくなることなのだと知った。あなたのおかげで。知ってますか。頬が氷のように冷たく、冷たく成る。

またあなたの速度に追いつけなかった。あのとき着信を取っていればあなたは今もこの部屋でお酒でも飲みながらわたしを待っていたのかしら。もしくは本当に合鍵を失くしたなら何故叩き起こしてくれなかったのでしょう。この失態、償い。一生背負いましょう。無力さを恥じましょう。おこがましくとも。傷が癒えかけたら抉りにおいで。永遠にこの部屋に足止めさせて。二度と動けなくして。何事も無かった顔なんてさせないで。時の流れに抗わせて。あなたはいたよ。わすれない。わすれさせない。みんながわすれてしまってもずっとずっとあなたのこと考える。あなたはいたよ。ここに。ありがとう。ごめんね。